酸素濃度計と二酸化炭素濃度計を一緒に設置する理由

酸素濃度が変化する環境において、皆様は酸素濃度計だけ設置していれば安全が確保できると思い込んでいないでしょうか。
化学プラント、醸造施設、地下工事、密閉タンク清掃など、これらの環境で、予想以上に早く空気組成が変化し、危険な状態になることがあります。
本記事では、空気組成の基礎知識から酸素濃度と二酸化炭素濃度が人体へ及ぼす影響、そして酸素濃度計と二酸化炭素濃度計を併設することの重要性まで、安全管理の盲点となりうる箇所について解説します。
空気のガス組成
通常大気(空気)の標準的な組成は、以下のようになっています。

上記のガス濃度は開けて換気が良い場所ではほぼ一定ですが、化学反応や発酵等がある閉鎖空間内では、種々ガスの発生によりガス濃度は変化します。
例えば、大勢の人がいる一般居室を締め切った状態のままでいると、皆の呼吸により酸素(O2)濃度は減少し、二酸化炭素(CO2)濃度が上昇していきます。これが居室内にいる人が眠くなったり息苦しく感じる原因となっています。
酸素(O2)濃度が人体に及ぼす影響
空気中の酸素濃度は約21%ですが、16%を下回ると徐々に健康へ影響が出始めます。
出典:岩谷産業㈱ 液化炭酸ガス SDS
そのため、工事現場等で酸欠の恐れがある箇所では、基本的に酸素濃度が18%以上あることを確認してから作業を行います。事前の安全対策や酸素濃度が低い場合の対処としては、送風機(+送風ホース)が用いられることが多いです。
出典:ワキタ送風機
二酸化炭素(CO2)濃度が人体に及ぼす影響
酸素の場合は空気中の通常濃度より約5%濃度が低下すると悪影響が出始めましたが、二酸化炭素の場合はパーセンテージ割合で見ると空気よりも早く濃度変化の悪影響が出始めます。
出典:岩谷産業㈱ 液化炭酸ガス SDS
安全と少し関係ある話として、二酸化炭素濃度と眠気の関係については、5,000ppm(0.5%)で眠気が顕著に強くなると東北大学が2024年に発表しています[1]。
また、アメリカのバークレー研究所も、二酸化炭素濃度が2,500ppm(0.25%)を超えると意思決定能力が低下し、学習等への影響があるという記事を出しています[2]。ただし、実験サンプル数は24と少ないので留意が必要です。
[1]:環境中の二酸化炭素は確かに眠気を誘発する
[2]:Elevated Indoor Carbon Dioxide Impairs Decision-Making Performance
両方の濃度計を設置すべき理由
CO2を取り扱う実験室や製造所の場合、酸素濃度計だけ現場に設置していても安全は確保できません。
下記はCO2濃度だけが1%ずつ上がっていく際のO2濃度を示したグラフです(N2濃度やAr濃度も加味したガス濃度変化)。

例えば、CO2濃度が5%まで上昇すると呼吸が困難になりますが、O2濃度は19.9%を示しており、酸素濃度計の表示上はまだ安全と誤認識されます。
またO2濃度の安全下限界である18%の時、CO2濃度は14%となっており、意識不明となるには十分すぎるガス濃度であることが分かります。
そのため、二酸化炭素を取り扱う場所では、酸素濃度計だけでなく二酸化炭素濃度計も併せて設置することが安全確保に繋がります。
濃度計の設置位置および運用方法

各濃度計の基本的な設置位置は下記です。
- 酸素濃度計は呼吸高さ(立ち作業、座り作業)。
- 二酸化炭素濃度計は床上等低めの位置(CO2は空気より比重重いため)。
ただし、二酸化炭素の発生位置や換気風向きによって各濃度計の位置を変える必要があるため、設計時にリスクアセスメントを行い、作業内容や方法を確認してから各濃度計の設置位置を決めるようにしてください。
まとめ

本記事では、空気中のガス組成や酸素・二酸化炭素の濃度変化が人体に及ぼす影響、安全管理のための濃度計設置の必要性について解説しました。
通常の空気中での酸素濃度は約21%、二酸化炭素濃度は0.03%ですが、密閉空間や二酸化炭素の取り扱い現場ではこれらのバランスが容易に崩れます。
酸素濃度が16%を下回ると、健康被害や作業中の重大事故リスクが高まるため、18%以上を維持するための安全確認と送風などの事前対策が欠かせません。
一方、二酸化炭素濃度は0.5%の段階で眠気や判断力低下を招き、5%以上で呼吸困難や生命の危険が生じます。特に注意すべきは、酸素濃度のみを測定して安全だと誤認し、実際には二酸化炭素中毒リスクが潜んでいるケースです。
したがって、両方の濃度計を設置することで、酸素欠乏と二酸化炭素中毒の双方をカバーした現場安全を実現できます。設置の際は、酸素濃度計は作業者の呼吸位置、二酸化炭素濃度計は床近くなど、各ガスの比重と発生源・換気状況に応じて最適な高さや場所を選びましょう。
目に見えないガスによる事故は”まさか”と思うほど簡単に起こり得ます。いま一度ご自身の職場環境を点検し、必要な設備が万全か、今すぐ確認してみてください。